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【INTERVIEW】パソコンとAV機器をつなぐ架け橋――デノンの開発者に聞く


2006年8月30日

パソコンの音をAVで聴くのに最適な製品

iPodなどの携帯音楽プレーヤーの登場で、音楽に対する接し方が変わったと感じる人々も多いだろう。筆者もそのひとりで、アルバムをまたいだ楽曲の再生や、ディスク交換なしでの長時間再生など、パソコンに音楽ライブラリーを構築する便利さを日々感じている。しかし、同時に不満もある。そのひとつが音質だ。パソコンに接続したスピーカーや携帯型音楽プレーヤーは、楽曲が本来持つ情報のほんの数パーセントしか伝えてくれないと思う。同時に音楽を再生するためだけに、パソコンを起動する煩雑さもある。パソコン上(あるいはパソコンに近いストレージ上)に構築したライブラリーを、より高音質なコンポで聴きたい。そんな風に考えていた。

そのために筆者が必要と考えているのは、(1)ロスレス(あるいは非圧縮)のコーデックをサポートすること、(2)デジタル出力を持つこと、(3)パソコン上での操作やテレビへの接続なしに、曲名の表示や選択など基本的な操作がこなせることの3点だ。しかし、市場にこれまであった製品ではこれらを過不足なく満たす製品は存在しなかったように思う。

CHR-F103
CHR-F103に、DRA-F102、SC-F103SGを組み合わせたシステム

そんな中登場したのが、デノン コンシューマー マーケティング(株)から8月下旬に発売される『CHR-F103』だ。その報道資料を読んだとき、筆者は「これこそ待ち望んでいた製品かもしれない」と直感した。そこで筆者は、CHR-F103を開発したデノンの開発陣を取材。ネットワーク時代のホームネットワークのあり方や開発の苦労話などを伺った。



これまでにない多機能と拡張性を持つハイコンポ

今回取材に訪れたのは、神奈川県の川崎市にある(株)ディーアンドエムホールディングス(以下D&M)の本社。D&Mは“デノン”や“マランツ”など国内外のオーディオブランドを扱う持ち株会社である。インタビューした開発陣が所属するのは、D&Mのデノン ブランドカンパニーである。

iPodとの連携も
CHR-F103。チューナーアンプにはiPod用の端子も設けられている

CHR-F103は、音質にこだわった単品仕様ながら、横幅250mmとコンパクトな筐体を採用したハイコンポ“ef”(エフ)シリーズのプレーヤーである。“CD/HDD/MUSIC SYSTEM”という名称が示すとおり、本体には40GBのHDDを内蔵。CDからリッピングした曲をライブラリー化して再生できる。すでに販売されているチューナーアンプ『DRA-F102』(4万9350円)や、同時発売されるブックシェルフスピーカー『SC-F103SG』(4万9350円)とシステム構築することも可能だ。

価格は11万2350円とこの種の製品としては、かなり高価な部類に入るものの、そのぶん機能は充実している。CDの楽曲をHDDに保存するという使い方以外にも、インターネットラジオやWindows Media Connect 2.0対応のミュージックサーバー上のファイルの再生、USB経由でのパソコンとのデータ交換などが可能になっている。背面には、2系統のデジタル出力も装備されており、単品のD/Aコンバーターやフルデジタルアンプを介して、より高音質なオーディオシステムに接続できるのも魅力である。





日本語対応とインターフェースの吟味により、快適な操作性を実現

背面
CHR-F103の背面。Ethernet端子などが搭載されている

CHR-F103が扱えるソースは、音楽CD(MP3/WMA CD対応)、HDD内のデータ、ネットワーク上のコンテンツ、USBストレージ内のデータと多彩だが、最も基本となるのはHDDプレーヤーとしての使い方だろう。リッピング時に選択できるコーデックはWMAとリニアPCMで、WMAのビットレートは128kbpsと192kbpsの2種類が選択できる。曲名情報に関しては、Gracenoteのデータベースをローカルに35万アルバムぶん蓄積しており、すでに発売されているアルバムであれば、インターネットに接続できない環境でも取得できる(新譜はネット接続が必要)。

HDDには、128kbpsのWMAファイルを約1万曲記録できる(リニアPCMの場合は、950曲程度、1曲4分で計算)。これだけの曲数を扱うには、検索性の高さも重要になるが、その点もよく考えられている。

まず、印象的なのは、楽曲情報を表示するためのディスプレーの見やすさだ。CHR-F103は液晶ではなく、蛍光管(FL管)を使った3行表示(6行に切り替えることも可能)のフロントディスプレーを装備し、これには日本語もしっかりと表示できる。



日本語ディスプレー
ディスプレーは、3行と6行の2種類の表示方法が選べる。3行表示を選択したときには、日本語表示が可能

曲の選択は、左右に動く本体前面のマルチジョグ(押すことで決定となる)やリモコンの十字ボタンを利用する方式で、携帯型音楽プレーヤーに近いシンプルな操作性だ。リモコンの背面のフタを開けると、携帯電話機のようなテンキーが用意されており、曲名やアーチスト名の一部を入れることで楽曲名を絞り込む機能“ダイレクトサーチ”や、楽曲を一覧表示している状態でスキップキーを押してアルファベット順に曲をとばす機能“イニシャルレターサーチ”なども用意されている。日本語のソートは文字コード順となるためやや検索しにくく感じたが、かなり吟味されたインターフェースである。

マルチジョグ
マルチジョグ。左右に回すことで選曲操作が行なえる

楽曲はUSB 2.0経由でパソコンからコピーすることもできる。これには“DENON MUSIC MANAGER”という付属のソフトを利用する。CHR-F103は、WMAとWAVE以外にも、AAC、MP3の再生が可能だ。DENON MUSIC MANAGERには、日本語でのプレイリスト編集機能や、CHR-F103のHDDをバックアップする機能(独自形式で暗号化されるため再生は不可)なども含まれており、パソコンと連携することでさらに便利に使えるようになる。

バックアップ中の画面
DENON MUSIC MANAGERでCHR-F103のバックアップを取っているところ


AVサーバーやインターネットラジオの楽曲も再生可能

リモコン
リモコンの背面のふたを開けると、テンキーが表れる。携帯電話機と同じ方式で文字が入力できる仕組みになっており、曲名の絞り込みなどに使える

HDD以外のソースの選択は“USB/NETWORK”というメニューの下に集められている。ここで“Intenet Radio”や“USB”、ネットワーク上にあるマシンの“サーバー名”などをたどっていく仕組みだ。

インターネットラジオに関しては、米vTuner社のデータベースをデノン用にカスタマイズした放送局リストが参照できる。アクセスできる放送局数は数千局に及ぶが、その中から気に入った局をピックアップし、“Favorite”フォルダーの中にブックマークすることもできる。

LAN上にある、Windows Media Connectのミュージックサーバーは、自動的にリストアップされる。USBストレージに関してはフロントパネルのコネクターに接続する。これらのソースの中の曲を再生する場合もフォルダーの階層構造をたどっていくだけだ(曲名はファイル名で判断する)。CHR-F103は米マイクロソフト社が提唱する著作権保護技術“Windows Media DRM 10 for Network Devices”(以下Windows DRM)に対応しており、Windows DRM対応の配信サイトから、パソコンにダウンロードしをネットワーク越しに再生することも可能だ。ミュージックサーバーに関しては、最近では対応のネットワークストレージやAVサーバーも販売されている。これらの機器を利用すれば、パソコンを経由せずに音楽を再生できる。





CDドライブは自社開発、振動対策にも配慮

このように多彩なソースに対応できるCHR-F103だが、操作性は非常にシンプルで、複雑さを感じることはなかった。

エンコード中の追いかけ再生はパソコンでは当たり前のように使える機能だが、AV機器でこれを実現しようとすると、処理速度などの問題で難しい面もあるようだ。しかし、CHR-F103ではエンコード中にもすでに録音した楽曲やインターネットラジオなどを再生して、楽しむことができる。リッピング速度はリニアPCMで最大16倍速、WMAで最大12倍速(平均9倍速)。ドライブはCD再生時よりも高速に回転することになるが、エンコード中に別の楽曲を再生してもドライブの騒音は気にならないレベルだった。

自社開発のCDドライブ
自社開発のCDドライブ

CDドライブは、一般的なパソコンに搭載されているものではなく、民生用DVDプレーヤー用のドライブをベースに、デノンが独自に開発したもので、フローティング構造にして共振を防いだり、騒音を防ぐため回転数を最適化する仕組みなどが採用されている。HDDは汎用品だが、支えの部分にダンパーを設けるなど振動対策が徹底して行なわれており、信頼性を高めるためのファームウェアなども自社で開発したという。

CDドライブの内部
CDドライブの内部。フローティング構造にして共振を防ぐとともに、ネジの部分にダンパーを設け振動を防いでいる

開発者が語る『CHR-F103』

このようにCHR-F103は、民生機器の優れた操作性とパソコンとの連携性を両立した充実した製品に仕上がっている。後半では、開発者の言葉を交えつつ、CHR-F103に開発者がこめたオーディオメーカーならではのこだわりの部分を聞いていこう。

お話を伺った開発陣の方々
お話を伺った開発陣の方々


布石となったAV機器の存在

取材に際して、まず始めに紹介されたのが、CHR-F103に先だって開発されたAVアンプの存在だ。CHR-F103は、デノンとしては初めてのHDD内蔵プレーヤーだが、最新の楽曲情報を取得するために、ネットワーク機能が必要であることもあり、AVアンプに搭載されているネットワーク機能を搭載することになったという。

AVC-4320
世界に先駆けてWindows Media Connectの仕組みなどを搭載した『AVC-4320』(米国名はAVR-4306)

CHR-F103に搭載される機能は、基本的に昨年11月に発売されたAVアンプ『AVC-4320』(価格25万2000円)と同等のものだ。デノンは、AVC-4320の上位に当たるフラッグシップ機『AVC-A1XV』(価格69万3000円)と『AVC-A11XV』(価格42万円)に対しても、AVC-4320相当のネットワーク機能を追加する有償アップデートを行なっており、中級以上の製品ではすべてこれらの機能が利用できる状態になっている。CHR-F103では、AVC-4320の機能のうち、パソコンのウェブブラウザーから同機を操作できるリモコン機能“ウェブコントロール”は省略されているが、インターネットラジオやAVレシーバー機能に関しては同等である。

ネットワーク関連の技術開発を担当した、AV設計部主任技師の鈴木康久(すずき やすひさ)氏は、ネットワーク機能に関するデノンの方向性に関して以下のように話す。

鈴木氏
AV設計部主任技師の鈴木康久氏。ネットワーク関係の設計を担当

[鈴木] 開発当初から考えていたのは、自社の規格でクローズしたネットワークではなく、あくまでも“汎用性のあるコネクティビティー”を実現していこうということでした。当時策定されつつあった業界標準に沿った形にすることで、バッファローの『LinkStation』やデジオンの『DiXiM』といった製品と連携を取れるようになりました。また、マイクロソフトがWindows Media ConnectやMicrosoft DRMという技術を提供しており、昨秋あたりからデノンもワールドファーストという形で、対応機器をリリースしています。これらの技術を利用しながら、「操作に関してはなるべくパソコンらしさを見せないようにしよう」というのがコンセプトでした。デノンでは、ネットワーク上のコンテンツも1ソースととらえ、CDプレーヤーやDVDプレーヤーなどと同じように、アンプ前面のスイッチで切り替えられるようにしています。





日本語表示にこだわった結果選択されたFL管

CHR-F103のネットワーク機能は、AVC-4320とほぼ同等と書いたが、一部上回る面もある。それは日本語対応だ。本体には漢字ROMを搭載し、JIS第2水準までの日本語フォントを表示可能。ウムラントやアクサン記号が付いた欧文フォントにも対応する。そして開発者が特にこだわったのは、これらのフォントを、フロントディスプレーでどのように見せるかという部分である。

フロントディスプレー
日本語表示にも対応したフロントディスプレー

本体前面のディスプレーには、視認性と高級感の両面に優れたFL管を採用している。ここに3行(または6行)のメニューを表示するインターフェースとなっており、漢字を使った曲名やアーチスト名も非常に見やすい。CHR-F103の商品企画と設計を担当したプロダクト&マーケティング本部プロダクトマネージャー菊池敦(きくち あつし)氏は以下のように話す。

菊池氏
プロダクト&マーケティング本部プロダクトマネージャーの菊池敦氏

[菊池] フロントディスプレーの開発には初期の段階から携わっていますが、当初はLCD(液晶パネル)でやってしまえばいいんじゃないかという話もありました。しかし、LCDは高級コンポにはそぐわないと考えています。FL管はバックライトは使わず、自分自身が発光するので、小さな文字でも実際よりも大きくハッキリと見えます。そういった“見やすさ”に加え、オーディオ機器ならでは“高級感”も追求しています。FL管で、細かい小さなドットを実現するというのは大変難しい技術で、コストもかかりましたが、そのぶん満足できるものが作れたと自負しています。

商品を企画する上で、菊池氏が重視したの音質と操作性の2点だという。

[菊池] デノンは、まずAVアンプで“ホームネットワークの構築”を行なうための環境を提供しました。CHR-F103は、このAVアンプの機能をシステムコンポにも凝縮したものです。AVアンプのユーザー層は、比較的マニアックで、難しい操作でも受け入れてくれる場合が多いのですが、ミニコンポでは、そうはいきません。取扱説明書すら読んでくれないような層に対して、どれだけ使いやすくできるかという部分がチャレンジでした。同時に、オーディオメーカーとして音に妥協しないこともポイントでした。音に関しては、同シリーズのチューナーアンプ(DRA-F102)に、スピーカー(SC-F103SG)に最適化した“スピーカーオプティマイズ”を追加するなど、システム全体で音を作りこんでいく取り組みも行なっています。高級コンポの“Sシリーズ”を担当していた人間にも開発に参加してもらい、音質の練り上げも行ないました。単品コンポに負けない音になっていると自負しています。





パソコンかコンシューマーエレクトロニクスかの議論があった

CHR-F103を開発するに当たって、社内で議論を重ねたのは「必要な機能をどのようなシステムで実現するかだった」という。CHR-F103では、最終的に2つのDSP(ネットワーク制御用とHDDプレーヤー制御用)を中心にした、家電に近いシステムを採用した。スタンバイから17秒で起動する高速性や、スタンバイ時に0.1W以下になる消費電力などはこれによって実現できたものだと、技術開発本部AV設計部副部長の荒井伸一氏は話す。

荒井氏
技術開発本部AV設計部副部長の荒井伸一氏

[荒井] 開発のプロセスの中でいろいろな議論がありました。チップ構成もそのひとつです。開発の当初には、ITRONやLinuxのようなOSを使って、(パソコン的なシステムを)作り上げるようという提案もありました。しかし、結果的にはそのアプローチは取らず、DSPをベースにしたCE(家電)ベースのチップを利用することになったのです。

荒井氏は、パソコン的なアプローチをとらなかった理由として「消費電力の少なさ」や「起動の高速化」といった課題の克服が難しかった点を挙げた。市場ではHDDビデオレコーダーのように、外見はAV機器でも、実際は汎用性の高いプロセッサーでOSを走らせる、パソコンのアプローチを取っている製品も少なくない。しかし、こういった製品の多くは起動に1〜2分程度の時間がかかり、消費電力も大きい。ファンやドライブ類の起動音など、騒音に対する対策が足りない製品も存在する。





ソフトの作り込みには半年掛けた

操作性に関しても複雑さを避け、シンプルに操作できるようにするための工夫がいろいろと盛り込まれている。例えば、CHR-F103ではインターネットラジオ視聴時に電源を落として再度電源を入れた場合でも、選局したチャンネルが記憶される仕組みとなっている。これは、AMやFMラジオの操作に慣れた人なら自然にそうなると期待する挙動だからだ。

HDDプレーヤーの選曲操作に関しても、数千曲のオーダーで保存される楽曲をどうすれば効率よく取り出せるかに苦労したという。“ダイレクトサーチ”や“イニシャルレターサーチ”なども試行錯誤の中から生まれた機能だ、ソフトウェアの開発に当たった、技術開発本部AV設計部技師の大森良夫(おおもり よしお)氏、技術開発本部ソフト設計部主任技師の与儀剛(よぎ つよし)氏は下記のように話す。

与儀氏と大森氏
技術開発本部AV設計部技師の大森良夫氏(右)と技術開発本部ソフト設計部主任技師の与儀剛氏(左)

[与儀] HDDプレーヤーとしては、弊社初の製品となりますので、何回も試行錯誤を繰り返しました。他社製品や『iPod』を触ってみたり、社内の開発者にレポートを書かせたりと、さまざまな意見をもらいました。その積み重ねの中で、弊社として「一番使い勝手がいい」と思う製品が完成したと考えています。

[大森] 自分が1ユーザーになった場合に「どういう製品になってほしいか」をいろいろな人間とディスカッションしました。(個人的な満足度としては)90%ぐらいでしょうか(笑)。満足度は高いですが、ハードやソフトの制約もありましたから、100%できたとは考えていません。残りの10%は、今後よりよい製品を作っていくために生かしていきたいと思います。

[荒井] ソフトの人間も辛かったと思いますよ。こうすればいいと思って仕様を決めた。しかし、作り直しになる。こういったことの積み重ねでできています。現在の姿に落ち着くまでには、さまざまな取り組みがあったわけです。CHR-F103に関しては、開発者ひとりひとりが話しているよりも、もっともっと苦労しているんですよ。苦労話が足りないぐらいかも知れない。



DENON MUSIC MANAGER
パソコンで使用する転送ソフト『DENON MUSIC MANAGER』


信頼性をどう確保していくかもカギになった

松本氏
技術開発本部AV設計部技師の松本義晃氏。フラッグシップ機の『AVC-A1XV』の設計などを担当。これまでの開発の中では、横スクロールなどを利用して、AVアンプのフロントパネルに長い曲名などを表示できるようにしたり、フェードインフェードアウトの技術などを使わず、生の音のまま音を聞かせられるようにするといった部分にこだわったという

品質に関しても、同様の苦労が見られる。特に注力したのは、民生機では初めて扱うことになったHDDの信頼性をどのように確保していくかだったという。HDDは汎用の2.5インチタイプを利用しているが、制御関係のファームウェアに関しては他社との協業のもと設計し直し、寿命を高められるヘッドの動かし方や、静粛性といった部分にも配慮した。「HDDの扱いに関しては、D&Mグループの中にプロ用機材を扱う技術者もおり、経験値としてはあった。民生機の設計者たちも下地の技術は持っていた」と開発者のひとりは話す。

しかし、不慣れなユーザーが使う民生機ではより細かな配慮も必要になる。例えば、横に並べて設置されるスピーカーも振動源となり、難敵になりうる。HDDそのものは大きなG値がかからない限り壊れないが、「微振動が恒常的に発生した状況で果たして信頼性を確保できるのか?」という部分など手探りの部分もあった。また、実際に製品が市場に出回る前の段階――工場のラインプロセスに関しても「いろいろと配慮した」と荒井氏は話す。

[荒井] HDDの品質管理に関しては、製造の現場(中国)までいって確かめています。例えば、ネジを回すだけでもHDDには振動が伝わり、製造の際に無理な力がかかって問題が出る場合がある。そのために試作段階でいろいろな数値を計って、いまのプロセスで大丈夫かどうかを検証しました。工場では電気ドライバーの回転数を下げて組み立てなければいけないとか、細かい取り決めがあるんです。製品の形にするためには、こういう試行錯誤が必要なんですね。

品質に関しては、これ以外にもさまざまなテストが行なわれている。

[荒井] 品質を維持するために、プレイヤビリティー試験も行ないました。40℃の部屋の中で、100時間ぐらい機器を動かして、自動的にリッピングやプレイバックを行なわせるわけですが、当初はエラーが出たり、止まったりします。設計者はその原因を究明するためにはその部屋に入らないといけない。ずっと。過酷な環境に。そうやって原因を追及して、改善して、品質を高める。こういったことをひとつずつやってきているわけです。





パソコンとホームオーディオの架け橋となるか

このような地道な努力の末、CHR-F103は完成した。最後にまとめの言葉をいただきたいという編集部からの依頼に、プロダクトマネージャーの菊池氏は以下のように答えてくれた。

[菊池] CHR-F103はポータブル機器との連動を一番に考えています。家に帰ったときには外で聞いている音楽をよりいい音で、例えば寝る前に聞いたらぐっすり眠れる、そんなふうに聴いていただきたいと思います。普段外出先で聞いている音楽が実はこんなにいい音がしたんだと思えるような製品だと思います。

筆者は主にその機能に引かれて取材を行なった。しかし、そこで語られたのは、品質に対する開発者のこだわりだった。パソコンやネットワークとの連携を考えたAV機器は今後も増えていくと考えられるが、商品としてどのように落とし込むかは、各社、頭を悩ませている部分だと思う。荒井氏はインタビューの最後に「ライフスタイルにとけこんでほしい」と話していたが、そのためには使いやすく、信頼できる製品が必要だ。この点を重視している、デノンのスタンスには好感が持てた。

CHR-F103は、この種の製品としては高価な部類に入るかもしれない。しかし、現在販売されているHDDレコーダー&AVレシーバーとしては、おそらくもっともリッチな機能を提供するものであると思う。パソコンとAV機器の橋渡し的な機器を探しているのなら、まず検討したい製品だろう。

(編集部 小林久)




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