コラム / Sun View 第2回
サーバメーカーとしての覚悟
渡邉 利和(toshi-w@tt.rim.or.jp) [著]
2000年11月18日
Sun Microsystemsの戦略
今回は、サーバメーカーとしてのSun Microsystemsの戦略が明瞭に表われたものと考えられる最近の発表について考えてみよう。かつてUNIXワークステーションメーカーだったSunは、今ではUNIXサーバメーカーとして圧倒的な存在感を示している。そして、ここへ来てついに捨てざるを得ないものも出てきているようだ。
Sun Microsystems(以下Sun)は、かつてはUNIXワークステーションメーカーであった。ただし、「ワークステーションとは何か」を正確に定義することは困難だ。UNIXワークステーションが注目を集めていた頃には、「DOS/Windowsが動作するのがPCで、UNIXが動作するのがワークステーション」という素朴な区別が通用したが、PCワークステーションを名乗る製品が出現してからはそう簡単ではなくなった。
用途から単純に考えると、UNIXワークステーションは現在ではCAD/CAMといった作業に利用される個人向けコンピュータである。半導体や自動車といったものの設計など、2D/3Dのグラフィックスを使って作業する用途が主要なユーザーとなっているようだ。もちろん、現在でもこうしたユーザーはおり、製品は販売されているが、IAマシンが進出する中、あまり重要な市場とは見なされなくなってきているようだ。Sunのみならず、HPやCompaq(旧DEC)もUNIXマシンの主力はサーバ機に移ってきている。
ワークステーションとサーバの違い
さて、問題は「ワークステーションとサーバとでは何が違うのか」である。OSであるUNIXは、もともとサーバとして必要となる機能を十分に備えており、ワークステーション用にデチューンされたりはしていない。従って、ソフトウェア面では特別な違いはない。もちろん、サーバにはRAIDやクラスタリングといった機能をサポートするための追加のソフトウェアが添付されることが多いが、これらもワークステーションでは動作しないというものではないのが普通だ。
ハードウェアに関しては、多少の違いは見つけられる。CPU数が多かったりディスク容量が多かったりという点は、まぁ単純なスケールの問題として片づけてもよいだろう。マルチCPU構成のワークステーションは珍しくないし、大容量のHDDを接続することも難しくない。HDDのベイがホットスワップ対応になっていたりすると、これは違いとして認識されることになるが、まるで違うものと意識されるほどの差ではないように思う。
個人的にサーバとワークステーションの違いとして重要な意味をもつと思っているのは、グラフィックス機能のサポートである。1人のユーザーが占有して利用するワークステーションに対し、サーバはネットワーク経由でのサービスの提供が主たる役割である。CAD/CAMといった用途に利用するワークステーションではグラフィックス性能が重要な指標となるのに対し、サーバではディスプレイもキーボード/マウスもオプションだったりする。ネットワーク経由でアクセスできさえすればよいので、それ以外のユーザーインターフェイスはなくても構わないわけだ。最近流行の1Uサーバと言われるサーバ専用機が単なる箱であり、キーボード/マウスはもちろんディスプレイも接続せずに単に積み重ねてネットワークに接続するだけで利用することが想定されているのは、その端的な例といえる。
一般的なUNIXマシンでは、サーバでもワークステーションでも採用されているCPUには違いがないことが多い。もちろん、CPUにはバリエーションがあり、クロック周波数やキャッシュ容量が違っていたりするのだが、ハイエンドのワークステーションとハイエンドのサーバでは、どちらも同じCPUが使われているのが一般的だ。つまり、サーバでもワークステーションでも基本的な演算性能の部分では極端な違いがないのである。もちろん、信頼性の強化に関連する部分に関しては、サーバはハードウェアレベルでワークステーションと異なる構成になっていることが珍しくないのだが、これに関しては今回は考慮しないことにしておこう。
渡邉 利和(toshi-w@tt.rim.or.jp) [著]
GNOMEの採用が意味するもの
Sun Microsystemsは、Solarisの標準GUIとしてGNOMEを採用することを発表した。これは、SunがGUIの開発を放棄するという意味に取ることもできる。
Sunは、GUIの開発に関しても比較的早い時期から取り組んでいた。本連載のタイトルとしても名称を拝借しているが、「SunView」というSunの独自ウィンドウシステムがまず提供された。個人的な経験になるが、SunViewを初めて見たのはPCの世界ではまだWindowsはVer.2で、リバーシで遊ぶ以外に何の使い道もなかった頃だったと思う。その時点でモノクロハイレゾディスプレイの高精細画面で動作するSunViewはとても魅力的なユーザーインターフェイスに見えた。その後、SunはNeWSというウィンドウシステムを開発するが、X Window Systemとのシェア拡大競争に破れ、結果的にはNeWSの機能を一部引き継ぎながらも基本部分をXとしたX11/NeWSを採用することとなった。X上のWidget Setに関しても、OpenLookとMotifの争いを経て、結局はMotifの発展型であるCDEが現在のSolarisの標準デスクトップ環境となっている。こうしてみると、SunはGUI環境の開発では先陣を切りつつも結果としては負け続けたと言わざるを得ない。
ただし、UNIXワークステーションメーカーとしては、GUIは商品力を高める上でも極めて重要な要素だったに違いない。専用のスクリーン上でプロフェッショナルユーザーが長時間作業することが前提となるワークステーションでは、GUIの善し悪しはユーザーの製品に対する評価を直接左右しかねない。そのため、ユーザーからのフィードバックを反映して開発努力を継続し、品質を高めていくことはメーカーとして当然取り組むべきことだったはずだ。
今回GNOMEの採用が発表されたことで、SolarisのGUI環境の構成が再度変化することになるだろう。現在Solarisでは、OpenWindowsとCDEの2種類のデスクトップ環境が提供されているが、標準はCDEであり、OpenWindowsは互換性のために残されているだけで、サポートが継続される保証はないという扱いである。個人的な予想だが、GNOMEの採用によってOpenWindowsのサポートはうち切られ、CDEが現在のOpenWindowsと同様のバックワードコンパチビリティのためだけに残されている、という状況になるだろう。
GNOMEの採用によって、ユーザーにもメリットが生まれる。さまざまなUNIX系OSのユーザーインターフェイスが統一されることになるため、異なるシステムの使い方を個々に憶える負担が減るだろう。また、Solarisユーザーにとっては、Linuxを中心に開発されているさまざまなソフトウェアをSolaris上で簡単に違和感なく使えるようになるはずだ。オープンソースコミュニティと密接な連携を取り、かつオフィスソフトウェアやメール、スケジューラといった基本的なツールを提供するベンダーも参加して結成されたGNOME Foundationによる開発は、Sunが独自に開発するよりも速いサイクルで改善が行なわれるだろうことも期待できる。
ただし、前述したようにGUIがワークステーションにとって重要な要素であったと考えるなら、GNOMEの採用はワークステーションメーカーとしてはかなり重大な決断であるはずである。従来のSolarisではカーネル部分とGUI部分は歩調を合わせて改良されており、ユーザー環境としては統一されていた。しかし、今後はSolarisのバージョンアップとGNOMEのバージョンアップが独立して行なわれることになると予想される。結果として、カーネルとGUIの組み合わせに何通りものバリエーションが生じ、一時的には混乱が生じることも考えられる。場合によっては、Solaris用に販売されている商用アプリケーションで互換性問題が生じる可能性もないとはいえない。
こうしたリスクがあるにもかかわらず、SunがGUI部分へのコントロールを手放した理由は何だろうか? もちろん、オープンソースコミュニティとのかかわりや、結果としてよりよい環境が利用可能になるという現実的な判断など、さまざまな要素が複雑に関連しているとは思うが、私としてはこれはSunのワークステーションからの決別宣言であり、サーバメーカー専業とするためにあえて退路を断った決意の表われではないかと考えている。
サーバOSにGUIは不可欠の要素ではない。カーネルおよびネットワーク周りの信頼性が最優先で、GUIはあれば便利かもしれない、という程度のおまけでしかないのだ。脇道にそれるが、MicrosoftがWindows NTから2000にかけてサーバ市場の獲得を目指しながらそれに成功していないのは、WindowsがGUIベースのOSである点も重要な要素ではないかと考えている。専用サーバとして利用する場合、GUIを動作させておくことは単なるリソースの無駄遣いにとどまらず、システムの安定性に悪影響を与えるマイナス要因だと思うからだ。ともあれ、SunはGUIにGNOMEを採用することで、社内の開発リソースをサーバ用途に必要な部分だけに集中できるはずだ。従来のSunは、「ワークステーションメーカーだったが、いつの間にかサーバ市場が拡大して利益が大きくなり、サーバの比重が高まった」という感じで漸進的な移行を行なってきたように見える。それが、ここに来てついに意識的にサーバ以外の領域への関与を減らし、サーバに集中する決意を明らかにしたといえるのではないだろうか。
GUIに加えてもうひとつ、サーバメーカーとしてのSunの戦略上とても重要な存在になると思われるのが、11月8日に日本でも発表になったCOD(Capacity-On-Demand)プログラムである。これは、サーバの販売形態を根本から変える可能性のある新しい概念を導入したという点で興味深いものだが、残念ながら今回はこの話題には踏み込めないので、次回に改めて取り上げることにしたい。
渡邉利和
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